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2018/6/20

総合 - ドイツ経済ニュース

独保守系与党が分裂の危機、合意に基づく欧州政治に黄信号

この記事の要約

ドイツ連邦議会(下院)で共同会派を組む保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が難民政策をめぐって抜き差しならない対立へと陥っている。外交を通した難民問題の解決を目指すアンゲラ・メルケル首相 […]

ドイツ連邦議会(下院)で共同会派を組む保守系与党のキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)が難民政策をめぐって抜き差しならない対立へと陥っている。外交を通した難民問題の解決を目指すアンゲラ・メルケル首相(CDU党首)の取り組みをホルスト・ゼーホーファー内相(CSU党首)が現実に見合っていないと否定し、単独行動主義的(ユニラテラル)な難民対策を強行しようとしていることが原因だ。最悪の場合は共同会派解消のほか、メルケル政権の崩壊につながる恐れもある。欧州の安定の要であるドイツの混迷は欧州連合(EU)の政策決定能力を低下させ、通商摩擦への対応やEU改革などの緊急課題が宙に浮きかねない。

ゼーホーファー内相は難民政策の基本方針を作成し、12日の記者会見で発表する予定だった。だが、記者会見は前日に中止が決定された。メルケル首相が政策内容に異議をはさんだためだ。

問題となったのは、すでにEUの他の加盟国で難民申請を行った者などをドイツに入国させないという政策案だ。

難民の取り扱いルールを定めたEUのダブリン協定では、難民は最初に到着した加盟国で難民申請手続きを行うことが義務づけられている。このため他の加盟国はそれらの難民が自国に流入した場合、難民申請手続きの担当国に送還できる。ただし、他の加盟国はひとまず入国させたうえで審査することを義務づけられており、入国させないことは同協定に違反する。

メルケル首相はこの事情を踏まえて、ゼーホーファー内相の基本方針に待ったをかけた。

EUでは難民流入ルートの関係でギリシャやイタリアなどの南欧諸国がダブリン協定上の難民申請国になるケースが多い。このためダブリン協定を厳守した場合、難民はこれらの国に集中し、ドイツなどに流入するケースは極めて少なくなる。

南欧諸国はそうした事態を避けるために、自国に上陸した難民や難民申請者が経済水準の高いドイツやフランス、英国へ向かうことをほとんど取り締まっていない。

ダブリン協定のこうした問題を是正するために、欧州委員会はすべてのEU加盟国に難民受け入れの分担を義務づける制度の導入を難民問題が激化した2015年に提案したが、ハンガリーなど東欧の加盟国のかたくなな拒否にあい、宙に浮いた状況だ。

メルケル首相はこの現実を踏まえ、イタリアなど他の加盟国との二国間協定を通して担当国への難民送還を実現する意向を示している。

州議選控えCSUに危機感

だが、外交を通した難民問題の解決をCSUは非現実的な試みとみている。ドイツに一度入国した難民の送還は、難民本人・支援団体の法的な対抗措置や送還先国の非協力的な姿勢に直面し、極めて難しいという現実があるためだ。バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相(CSU)は14日、多国間協調主義の時代は協調にとらわれずに決定を下す国の出現によって終わりを迎えようとしていると発言。「わが国もまた、国益を自らの手で実現することにより尊敬されるようになる」との見解を示した。

ゼーホーファー内相は難民の入国を適切に統制できない現状が政治に対する市民の信頼喪失とポピュリズム勢力の躍進を招いたとして、他国が担当すべき難民などを入国させない措置の早期実施に意欲を示している。

CSUが他国で難民申請した者などの入国拒否方針を打ち出した背景には、バイエルン州議会選挙が10月に行われることがある。同州の地方政党であるCSUにとって州議選での大幅な勢力後退は絶対に回避したいシナリオだ。だが、現状では右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が同州議会に初進出するのがほぼ確実な情勢。世論調査では支持率が12~13%に達し、議席獲得に必要な5%ラインを大幅に上回っている。AfDの党勢拡大で最も大きな影響を受けるのはCSUとみられることから、党の危機感は大きい。CSUはAfDが難民問題を追い風にしていることを踏まえ、この問題でポイントを稼ごうとしている。

内相解任で政権瓦解も

メルケル首相は今月末のEU首脳会談で、難民送還の実現に向けて協議を行う。ゼーホーファー内相はこれを踏まえ、他国で難民申請した者などの入国拒否政策を今月中は控えるものの、同首脳会談で成果が得られなければ来月から開始する方針だ。CSUは18日の役員会でこれを支持することを全会一致で決議した。

メルケル首相はこの措置を認めていないため、ゼーホーファー内相が強行した場合は、解任に踏み切る可能性がある。そうした事態が起こると、CSUはCDUとの統一会派と内閣から離脱する恐れがあり、メルケル首相は過半数議席の確保に向けた新たな連立の模索、ないし解散総選挙を余儀なく見通しだ。

ドイツでは昨年9月の連邦議会選挙後の連立協議が難航。新政権は3月にようやく樹立された。この間6カ月、EUは重要な決定を下せない状態へと陥った。ドイツの政治が再び空白化すると、そうした状況が再来することになる。

CDUはメルケル首相の難民政策に批判的な議員も含めて同首相への支持を表明している。EU最大の加盟国であるドイツが多国間協調主義から単独行動主義へと転換すれば、「負のドミノ効果」(アンネグレート・カンプカレンバウアー幹事長)を引き起こし、合意に基づく欧州政治が機能不全に陥る恐れがあるためだ。

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